児童性愛者

児童性愛者―ペドファイル

児童性愛者―ペドファイル

前知識

http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2006/05/post_f22c.html
この本を知ったきっかけは上記のエントリである。「『隣の家の少女』を超える」という分かりやすいキャッチコピーである。このエントリとAmazonの書評を見て、相当の期待をもってページを開いた。
そんなわけでこの感想は本を読んでの感想というよりも、Amazonと上記リンク先に「嘘をつくんじゃねえ」という反論に近いものになってしまった。本当はAmazonレビューに書こうと思ったけど最後まで書かずにとっておいたものだ。読んだ直後くらいに書いた熱いものなのでその辺も考慮して読んで欲しい。そのあとで、現時点での補足を加えました。補足にはネタバレも入れます。

こいつは何も勉強してないし何も理解しようとしていない

期待して読んだのでガッカリという部分もあることはあらかじめご了承ください。

作中の年は1999年である。児童性愛者協会に潜入する前に勉強したというのはだからその前後ということになるだろう。今より充実しているとは思わないが、決してまともな研究書が皆無といえるほど昔でもない。著者は潜入前に勉強をしたというがそれは非常に疑わしいと言わざるをえない。勉強したのならば、見た光景がどうであれ、「聞くと見るとは大違いだった」というリアクションになると思っていたのに、そうではなかった。著者はそもそも、児童性愛者というものが実在することだけで衝撃を受けているくらい不勉強(よくいえばウブ)である。文章に、あらかじめ調べていたという言い訳が何度か出てくる。しかし、中身を見ると、何を調べてきたのか、その中身が疑わしい。できれば具体的に潜入取材前にどの程度の予備知識を持って挑んだのかの記述が欲しかった。本書には参考文献すらなく、私は、何も調査せずに潜入したというのが実際のところではないかと思ってしまった。本文中にも好奇心だけで取材したといった動機の記述が何度か出てくる。

勉強不足ともつながりがあるが、著者は、キリスト教的価値観からまったく変化が見られない。幼児に性的な欲望を覚えるのはそれだけで罪であり、決してあってはならないことだという立場から書いている。取材対象である児童性愛者が何を言っても、著者が思うことは、「社会的弱者で判断力もない、相手が、決して対等とはいえない者を支配していることに気がついていない卑怯者」といったような非難であり、それがしつこいくらい繰り返される。児童性愛者自身がそんなことには気づいていて、罪悪感さえ覚えていて、それでもやめられないというところをあまり考えていない。罪は罪。どんな理由を並べても罪は罪ということから一歩も動いていない。うがった見方をすれば、「自分は児童性愛者ではない」という言い訳を繰り返しているようにも思える。非難の言葉がおざなりで、良識的意見代表という感じなのだ。児童性愛者でも同じことを書くぐらい造作もないだろう。

文章力の低さも書いておきたい。取材を続けるうちに体調が悪くなったとか、見たことが衝撃的で寝つけなかったとか書いているのに、何を見たのかが書かれていない。書いても、「ひどいことが行われていた」などと書くだけである。大変残念なことであるが、殴りながらレイプしていたなどといったことであれば想像の範囲内であり、それ以上の何かを見たようには感じられないのである。実際に目の当たりにしたときの衝撃は大変なものだっただろうと想像するのだが、読んでいる方としてはある程度は想像して覚悟しながら読んでいるので、ヌルイと感じてしまう。著者自身が、まだ自分が見たものに整理できないまま、見切り発車をしたような文章だ。もっと自分のトラウマと向き合ってごまかさずに書かないと、「その程度」としか感じられない。

補足(ネタバレあり)

スゴ本の中で「延々と聞かされる彼らの言い分」って記述があるけど、本書にはそんなところはない。まったくないとは言わないが、潜入取材で自分も児童性愛者のフリをしているわけだから、そんな主張を著者が耳にする機会は皆無である。「彼らの言い分」と書かれた箇所は本書の内容ではなく感想を書いた人の脳内意見であることに注意されたい。この本の目的は、児童性愛者の生態を明らかにするといったことではない。

あらすじは簡単で、児童性愛者協会に会員として潜入取材した著者が正義感から接触した二人の児童性愛者――つまり取材対象――を警察に売る、というものである。そしてこの本の目的は、取材対象を通報したことの理由の説明のようなものだ。それも前述のようにやたら感傷的なので、通報について読み手に説明するというよりも書くことで自分自身を納得させることが第一の目的だったように思う。そういう目的で本が書かれることを悪いこととは言わないが大して面白くないことは確かだ。とくに2008年の日本で読んでも、そのくらいの覚悟を決めて取材しろよ、甘ったれるな、としか思わない。

とにかく退屈な本で、最後の三分の一は、「読み終えたら酷評してやる」「読み終えたら酷評できる」という後ろ向きな情念で読んだ。100点満点中35点くらいです。

追記(2008-12-24T08:47:34+09:00)

リンク先のレビューと「好みが合わなかった」というレベルではないことに注意されたい。レビューは本文に書かれていないことにまで言及して褒めている。これは完全に騙されるので、私のように被害に遭わないようにという親切心からのトラックバックである。
酷評を読んで「面白そうだな」と思うこともあれば、絶賛を読んで「自分には合わなそう」と思うこともあるけど、こういう完全に嘘を書いているレビューは危険だ。