第14ステージ

自転車レースを見て「これは面白い」と最初にしみじみ感じ入ったのは,こういう展開のステージである。それ以来,こういう展開をことのほか好んでいたのだけど,今日はまた違った発見があった。もう15ステージの放送が始まらんという時間だけど,改めて書こうと思う。
展開は逃げが11人。逃げの11人のうち,総合成績で一番いいのが15分44秒遅れのSandy Casar,21位である。総合トップのIvan Bassoを擁するCSCはその逃げを容認し,7分から10分近くのリードを許す。そこまで逃がしても総合トップには影響がなく,先頭との差がそれだけあればメイン集団から飛び出す選手はいないだろうという判断である。この日のレースをしてIvan Bassoは,"I'm happy with the way things are going in the Giro and I hope it continues like this,"こんな風に行けばいいなと語っている。
ゴールは2級山岳を越えて50キロも下った先にある。山岳頂上でこそ差がついたものの,下りでは逃げの11人は再びまとまり,ゴール手前10キロくらいから牽制が始まる。ゴール前よーいどんで走れば早いのはStefan Schumacherなどに限られるため,ゴール前まで11人で走りたくはない。ちょっとアタックしては誰が追いかけるか,誰が追いかける奴の後ろに付くか,そんな様子見を繰り返した後,Francisco Pérez Sanchez(Caisse d'Epargne-Illes Balears)が逃げ出し,その後ろをCeramica Panaria-NavigareLuis Felipe Laverde Jimenezが追いかけるのである。そこで牽制が入る。この二人を誰が追いかけるかで様子見が発生する。「お前が追えよ」「そういうお前が追えよ」という空気になる。二人は快調に抜け出す。残る9人は牽制し合ったまま,みんなが協力すれば追いつけるのに,牽制をしたまま3位争いをすることになるのである。
ま,ステージレースではよくある展開である。初めて見るとその各選手の心理と駆け引きが,ほかのスポーツにはあまりないので(先頭が不利という自転車の特徴がこういう展開を生む),面白いと感じさせてくれる。
今回の発見は逃げた二人の駆け引きと,二人のレース後のコメント,そしてニュースの伝え方についてである。向こうの自転車の歴史を感じた。
逃げた二人は協調体勢なんだけど,Pérezが積極的に先頭を引き,Laverdeはあまり先頭に出なかった。また彼が先頭に立つとペースが落ちて追走の9人との距離が縮まるので,Pérezが多く引くことになったのである。ゴール手前のやや早い段階でPerazが最後のスプリントを始めるが残り300メートルでLaverdeが残った力を爆発させ,彼を差し,第14ステージの優勝を決めるのである。
rezが前を引いてばかりのとき,解説は,rez was eager to win Spain's second stage of this Giro, but he seemed overconfident about the pesky Laverde.「Pérezは勝とうとしていたが,Laverdeをなめていた」と語る。また,「Laverdeはこの最中,走れないような態度を取っていた」と,解説は彼の駆け引きを冷静に語っているのである。
最後にPérezはLaverdeに差されるのだけど,「Laverdeより後ろに追いつかれることを恐れた」と語っている。Pérezのコメントは以下。

"I was confident in myself and I was more worried about the group catching us than Laverde," Pérez said. "The South American surprised me in the finale, because he hardly took any pulls when we escaped and he saved his strength to beat me in the final meters. I've lost an excellent chance, but I will keep fighting."
このくらいの英語は分かる。「自分に自信があり,Laverdeより追走に捕まることの方が怖かった。南アメリカ出身の彼には驚かされた。一緒に逃げているときは強い引きを見せていた上に,ラストスパートで強さを見せつけ,自分を打ち破ったんだから。自分は絶好のチャンスを逃した。しかし,まだやるよ」
ま,日本人的というか,Laverdeの駆け引きっていうのは,古い自分の価値観からはややずるいように映るのである。だけど,解説がLaverdeの駆け引きのうまさを褒め,Pérezの油断を指摘し,Pérez本人もLaverdeのうまさに賞賛の言葉を口にするのを見ると,それら全体の自転車レースに対する理解の深さを感じずにはいられないのである。
逃げ出した2人の勇気と決断や,それを追えない9人の心理を理解はしていたけど,さらに逃げた2人の駆け引きについては似たような展開を見ても今まであまり注意を払えなかった。前述したように,歴史を感じる解説とコメントであった。
また,ここでは優勝したLaverdeと,同じ逃げに入っていたCeramica Panaria-NavigareFortunato Balianiのことも語っておいた方がいいだろう。
長くなるので要約するが,彼は追走の9人を牽制してLaverdeをサポートしつつ,自身も山岳賞ジャージを手にしているのである。ゴールした二人は抱き合って喜び,お互いを讃えあっていた。成績として完璧なものをチームは手に入れたのだけど,お互いのサポートと複雑な駆け引きがあったことを窺わせる抱擁であった。LaverdeのBalianiへの謝辞はcyclingnews.comに載っている。